老犬介護は愛おしい・・・介護ゼロ体験記

今回の主人公

ヤマトくん Mダックス/17歳

point

・老犬介護は愛おしいを合言葉に

・先住犬ホクトくんの介護経験でたくさんの引き出しをもつ

・車イス生活でも寝たきりにしない

・17歳からできることを増やし続けた

・介護の準備をしておいたのに介護をさせてくれなかった

 ヤマトの年齢を聞かれ「17歳です、あと数ヶ月で18歳になります」と言うと、10人中10人がビックリしました。それくらい、最期まで元気でアクティブなハイシニアでした。1999年5月5日生まれ。先住犬ホクトの長男で、我が家に「幸せ運び隊」としてやってきました。元気ですっとぼけ大将で天真爛漫でお散歩お友達大好き。よく食べよく遊び、笑いばかりの毎日を過ごしていました。


突然の病気…そしてワンチャリ暴走族へ


 そんな楽しい日常と笑顔をヤマトから奪ったのは「椎間板ヘルニア」でした。9歳の誕生日に発症し、グレード5からの手術、その日から下半身麻痺・排泄機能麻痺の子として一生を過ごすことに。そしてその数ヶ月後、扁平上皮癌になり麻痺したままの右脚の指を1本切断することになりました。
 動かない下半身に戸惑い、うまくいかないリハビリでストレスだけを溜めてしまったヤマト。部屋の隅で麻痺している後ろ脚を噛み続ける毎日。痛みを感じない後ろ脚を、このままでは噛みちぎってしまうんではないかと恐かったあの時。結果的に、ストレスとなっているリハビリをやめ、「一生自分の後ろ脚で歩けなくてもいい」と車イスを装着することにしました。車イスの力は借りていても自分の脚で歩ける喜びを感じながら今までと同じように笑顔で走り回るヤマトを見るたびに選択は間違っていなかったと思えました。
 我が家では「人間が口に出来ないモノはあげない」とずっと手作り食で育ててきました。関節、癌の再発予防にとサプリをあげたり、口に入れるものに対しては、小さな頃から気を遣ってきたつもりです。人間の食事より気を付けてきたかもしれません(笑)。そのおかげか、その後は特別大きな病気もすることなく、「ワンチャリ暴走族」と呼ばれるくらいに車イスで元気に過ごすことが出来ました。


ホクトが教えてくれた楽しい老犬介護


 父親犬ホクトがハイシニア特有の症状が出てくるようになったのは、ヤマトが14歳の時です。目が見えなくなり、耳が聞こえなくなり、夜中の徘徊や夜鳴き、1日中目が離せない状態となりました。常に手探り状態の介護でしたが、その時同じように老犬介護をしていた方とブログを介して知り合い、知恵を出し合い助け合い、時には愚痴を言い合いながら「老犬介護は愛しい」を合い言葉に共に笑顔で乗り切れました。この経験で、近い将来ヤマトにもやってくるであろう老犬介護を不安なく過ごすには十分すぎるくらいの沢山の引き出しを持つことが出来ました。だから仲間たちには感謝しています。
 我が家の決まり事の1つに「1日1回は必ず外の風に当たる」というものがあります。ホクトやヤマトが若い頃は「今日は雨だからお散歩行かなくていいや」なんていう日もありましたが、ホクトの目が見えなくなって耳が聞こえなくなってからは毎日、どんな時でも外へ行きました。最期まで残っていた嗅覚を刺激すること、外の風の匂い、草や土の匂い、ステーキ屋さんの室外機から漂うお肉の匂い(笑)。カートの中で楽しそうに鼻をクンクンとさせているホクトを見て、外に出すということはとても必要なことということを学びました。

 2015年2月、ホクトは18歳4ヶ月で旅立ちました。ホクトが居なくなった悲しさや寂しさは、今思えばヤマトが居てくれたから乗り切れたのだと思います。この時ヤマトは15歳7ヶ月でしたが、とてもそんな歳に思えない元気さにやんちゃさにどれだけ笑わせてもらったか、どれだけ救われたか……。

(写真:ホクトくん)


ヤマトを寝たきりにはしない!


 ホクト旅立ち後はヤマトはさらに元気になっていきました。いえ、元気になったというよりはやりたい放題になったという言い方が正解かもしれません(笑)。パワフルでした。アクティブでした。16歳になり17歳になり、車イスがあれば走れる子のままでした。
 家では車イスは使っていないので前脚だけで移動をします。今まで不便さは何も感じられていなかったものが、17歳になった頃からコロンコロンとよく転ぶようになってきました。移動しようとするとコロン、移動の途中でコロン。ひっくり返ってしまうと自分の力では起き上がれなくなる頻度が増えていきました。下半身が麻痺しているヤマトは、前脚がダメになってしまったら寝たきりとなってしまう子です。寝たきりとなってしまえばヤマトがヤマトでなくなってしまう。ヘルニア手術直後の、部屋の隅で麻痺している後ろ脚を噛み続けるヤマトがよみがえってきました。ヤマトにもうあんな思いはさせたくない…。何が何でもこの子の前脚は守らなくてはならない。


麻痺していたはずの後ろ脚が動き始めた


 2016年9月、ぐらんわん!イキイキ犬賞の表彰式ぐらコンに参加させて頂きました。その中で体力測定があり、バランスディスク等が置かれたブースにパパとヤマトが入っていきました。下半身麻痺のヤマトには何一つ出来るものがないのに、興味津々で入っていったパパとヤマト。老犬介護士の伊藤先生がヤマトを支えながらディスクに乗せてくれていました。ヘルニアで下半身麻痺・排泄機能麻痺であること、扁平上皮癌で右後ろ脚の指を切断していること、8年間車イス生活であること、そして、ここ最近コロンコロンと転ぶようになっていることを話しました。
 〝8年間も立てていない子って感じはしない〟と伊藤先生。この時の出会いでトレーニングに通い始め、ハーブの蒸しタオルでのマッサージ、バランスディスクトレーニング、自宅トレーニングを教えて頂き日々の生活の中でも楽しく遊び感覚でやりながら、1ヶ月に1度先生のところに通って成果を見ながら、次の段階にステップアップしていくということを続けていきました。
 17歳半の子が、8年間立つことすら出来なかった子が、昨日出来なかったことが出来るようになる姿を見て、いつだか先生に言ったことがあります。「色んなことが出来なくなっていくことが多いシニアなのに、出来ることが増えていくことが嬉しい」と。ホクトの老犬介護をしながら見てきた沢山の出来なくなること。シニアなんだから仕方がないこと…と思っていたのに、そうではないということをヤマトを見ていて知りました。


シニアだからと諦めることなんてない


 自分の力で脚を上げるということ、脚を前後に出して動くということ、8年以上も出来なかったことが少しではあるけれど出来るようになって、四本脚で立つなんてことは1秒も難しかったのに、15秒は出来るようになって。そして、お座りした状態から自分の力で立ち上がり歩くことが出来ました。数歩だけれど、間違えなくヤマトは自分の力で歩いたのです。私達はもちろんのこと、伊藤先生やスタッフ、その場にいたみんなで大喜びした瞬間のヤマトのドヤ顔…忘れることはありません。17歳9ヶ月の出来事でした。


老犬介護をさせてくれなかったヤマト


 17歳10ヶ月になった日曜日。いつものお休みと同じようにヤマトを連れてランチに行き、公園でお散歩をして、ドライブがてら買い物をして帰って来ました。帰って来てお昼寝して夕飯を食べて…いつもと何も変わらない1日でした。日付が変わった12時すぎにパパの横で眠りについたヤマトは、そのまま目をあけることはありませんでした。その表情に苦しんだところはどこにもなく、眠ったまま旅立ったようです。
 〝ヤマトは弱っていくところを見せたくなかったんだね〟と、沢山の人に言われました。
父親犬ホクトの介護を通し、「老犬介護は愛おしい」ということを知っていたからこそヤマトが弱っていっても何も心配することなんてなかった。介護をさせて欲しかったし、もっともっとヤマトと居たかった…そう思っていました。
 ぐらんわん!の「介護ゼロプロジェクト」。この企画を知った時に、自然と涙が出て自然と笑顔になれました……これはヤマトのことだと。元気なままのヤマトで終わりたかった…ヤマトはそう思ったんだなと素直に思えた時でした。
 最後までご飯を食べなくなるということもなく自分で美味しそうに食べたヤマト。最後まで笑顔で楽しそうにお散歩をしたヤマト。そして、最後まで諦めないで頑張ったヤマト。


人間が最初に諦めてはいけない老犬介護


 「老犬介護は愛おしい」と教えてくれたホクト。「老犬だからと諦めることなんて何一つない」と教えてくれたヤマト。老犬は確かに出来なくなっていくこともあります。けれど、昨日出来たことは今日も出来る! 今日出来たことは明日にはほんの少しだけもっと出来るようになるといいな。私達飼い主が最初に諦めてはいけないということ…。
 ヤマトが教えてくれたこと……ヤマトからの命のバトンをみなさんへ繋ぎます。

Vol.36(2017年7月号)に掲載。情報はすべて当時のものです。