犬の認知症はご長寿の証、飼い主さんは自分を褒めてあげよう

記事のポイント

1、犬の認知症は加齢による脳の萎縮・変性が原因で、長生きすれば避けがたいもの

2、なりやすい犬種は柴犬だけでなく、どの犬種でも起こりうる

3、認知症の心配があれば、一度、認知症専門外来や行動診療の受診をオススメする

犬の認知症は究極に年を取ったことの証
長生きさせてあげられた飼い主さんは自分を褒めてあげよう

dyplus西麻布で、認知症専門外来を担当する獣医行動診療科認定医の小澤真希子先生に「犬の認知症(認知機能不全症候群)」についてお話を伺いました。

編集部:犬の平均寿命はここ30年で倍近く延びるようになり、認知症を発症する犬も増え始めていますが実際はどうなんでしょうか。


小澤先生:私が行った調査では、14歳以上の犬の約15%に、認知症の兆候がみられるという調査結果が出ています。


編集部:ひと昔前は和犬が多いと言われていましたね。


小澤先生:調査では、柴犬と他犬種との差はありませんでした。ただ、昔の調査当時のデータに柴犬が多かったり、人気犬種だったり、当時の血統で認知症の傾向があったのかもしれません。さらなる研究結果が集まらないと、断定はできません。


編集部:犬が認知症になってしまう原因は?


小澤先生:いまのところ加齢による脳の萎縮・変性が原因と考えられています。人の認知症のように、特定の物質が脳内にたまることが原因ではありません。ただ、認知症を認知機能の低下と広く捉えればいろいろなパターンがあります。脳腫瘍で認知機能低下が起こることもあるし、ホルモンの病気で認知症に似た症状が出るという分類もあります。


編集部:加齢によることが原因なら、予防ができそうですね。


小澤先生:発症を遅らせることはできますが、加齢は止められないので、長く生きれば避けがたいものです。


編集部:犬に認知症の疑いがある場合、どんな診察になりますか?


小澤先生:まずは、負担の少ない血液検査で他の病気が隠れていないかを調べたり、神経学的検査をします。犬も医療機器が発展してきて、MRIが精度良く撮れるようになってきて脳血管障害や脳腫瘍などの鑑別ができるのですが、相談に来られる時点で、犬が高齢だということもありMRIを希望されないことがほとんどです。その場合は、ご家族からの聞き取りや検査結果を総合的に評価し、できる限り診断を絞り込みます。例えば、明らかな右半身麻痺があれば典型的な認知症の症状とは違う脳の神経障害を疑ったりします。


編集部:犬の認知症の診断は一般のかかりつけでも可能なんでしょうか?


小澤先生:行動上の問題は、聞き取りをたくさんしないと原因の判断はでません。通常の動物病院だと、その聞き取りを十分に行うことができず判断が曖昧になる場合があります。そのため、動物病院の認知症専門外来や行動診療科を受診していただくのが望ましいと思います。

犬の認知症を疑う行動とは?

□無目的に歩き回る、あるいは、同じ場所をぐるぐると回る
□家具や隙間に挟まっても後ろに下がれない
□昼夜逆転し、夜寝てくれない
□食べこぼしたフードに気がつかない
□排泄をトイレ外に失敗する
□物事に関心を示さなくなる


編集部:犬の認知症に治療法は?


小澤先生飲み薬では症状が劇的に改善されることはないので、実際は環境のケア、サプリメントが中心になってきます。


編集部:例えば、短い睡眠を繰り返して、夜も寝てくれない場合は?


小澤先生飼い主さんのためにもしっかりわんちゃんを寝かせてあげることが重要です。まずは原因を探ります。

例えば、2時間寝て1時間暴れるという場合、単に眠りが浅いだけではないでしょう。暴れるという状態が異常なんです。その理由として、過活動、不安、身体の苦痛、意識の障害などが考えられ、その意識の障害がてんかんによって起こっていることも考えられるため、そういったことは獣医師がきちんと鑑別診断してからの対処になります。


編集部:よくグル活といったように、同じ場所をグルグルと徘徊させてあげるケースがありますが、犬を好きなだけ徘徊させるのは?


小澤先生:それは、過活動による行動と考えられ、安全な場所であれば基本的には歩かせておいても良いです。ただし、穏やかにトコトコと歩いている場合は良いのですが、眠らず歩く、突進するように歩くという場合は、じっとしていることが苦痛であるような原因が潜んでいる場合がありますので、ご相談いただければと思います。


編集部:夜鳴きがひどい場合はどんな対処がありますか


小澤先生:夜鳴きについては睡眠薬を使いますが、まずは原因診断をしてからの処方となります。例えば、目が覚めたときに行き詰まって飼い主を求めて吠える子もいれば、意識の障害でずっと吠える子もいます。行き詰まる子は、行き詰まらない環境を整えてあげれば、夜ゴソゴソ動いても寝てくれて、飼い主さんもわんちゃんも満足です。自分で少しでも動くことは、からだの体位を変えることにもなるので、それを全部睡眠薬で寝かせてしまえば、起きた時に体全体がしびれてしまうので、あまりよくありません。


 ですが、意識の障害から興奮が著しい時は、興奮を沈める薬や睡眠薬を使います。いまは睡眠薬も安全性の高いものが出てきているので効果的に使えるようになりました。ある患者さんでは睡眠薬を1年あまり飲んでもらっていましたが、最期までそれに伴う副作用も見られずコントロールできました。


編集部:もしも、愛犬が認知症になってしまったら、最後に家族ができることとは?


小澤先生認知症になるということは、究極に年を取るということです。飼い主さんはわんちゃんをそこまで元気に過ごさせてあげられたことに自分を褒めて欲しいですね。本当にすごいなと思います。その上で、わんちゃんは認知症になっても家族のことはわかっていることが多いので、あきらめずに、日々の変化をよく見てあげてください。獣医師が触ると「あうー!」と怒る子も、飼い主さんが触ると静かにしていることもあります。


 また、喜んだときの反応があまり見られなくなるので感情がなくなったのかなと思う方が多いですが、そういう子も耳を掃除したり体を診察したり嫌なことをすればガウガウいいますね。なので、穏やかに過ごしている時は、きっと喜んでいる、気持ちよく、安心して穏やかに過ごせている…。そういった状態を見守ってあげていればいいのではと思いますね。

お話を伺った先生は、

小澤真希子先生
獣医師、 博士(獣医学)、獣医行動診療科認定医

Dyplus西麻布
東京都港区西麻布4-22-7
03-5464-1028 (9:30〜19:30)

この記事は本誌ぐらんわん!2022年4月号(VOL.55)に掲載しました。