明るい介護の老犬ホームで実習体験

神奈川県平塚市にある老犬ホーム「オレンジライフ湘南」で、2021年の夏・冬合わせて全15日間のインターンシップ※を体験した編集部員の羽田(はねだ)がレポートします。

 2年前に虹の橋を渡った愛犬が、晩年とても頑固になり、特に食事面で苦労した経験がありました。現在、実家にもハイシニアのチワワが2匹おり、老犬介護についてさらに学びたいと考えていました。
そこで、インターンシップができる老犬ホームを調べる中で、在宅介護の助言や器具のレンタル、毎週定期的に獣医師の診察も受けられるという特徴がある施設を見つけました。ここは終生預かり前提ではなく、ワンちゃんと飼い主の生活スタイルに合わせたケアを提案してくれる貴重な施設。平塚市の「オレンジライフ湘南」で実習体験を行いました。

オレンジライフ湘南
神奈川県平塚市平塚1-5-18
0463-20-9605(受付10時〜18時)
https://www.orangelifeshonan.com (現在、インターンシップの受け入れはありません。)

褒められ可愛がられる老犬たち


 扉を開けると、1階のフリースペースで小型から大型まで、たくさんのワンちゃんが過ごしていました。自由に歩ける子やベッドで臥床している子まで、様々な自立度のワンちゃん達が暮らしています。その性格や体格、歩行の具合などでスペースを分けていますが、どの子もお顔が見える状態でとても明るい印象を受けました。


 食事の準備や介助、投薬、排泄処理などのルーティンに加え、ワンちゃんの体調に応じてお散歩や日光浴、シャンプーや爪切り、グルーミング、マッサージ等のケアをそれぞれに行います。その間、スタッフは絶えずワンちゃんに声をかけ、その子を褒めて可愛がっている様子が印象的でした。「どの子に対しても、自分の子だったらこうして欲しいと思うことをしている」、「その子の気持ちを代弁するように、声に出して接している」と、様々な資格・経歴(老犬介護士、トリマー、ペットホテル勤務等)を持った専門家が、それぞれの信条でケアを行っていました。専属の獣医師は、「過剰な延命ではなく、命を全うするためにワンちゃんのQOLを維持するための医療を提供したい」と明確なビジョンを持っていました。さらには、食事・飲水量や排泄の状態等を日々記録・共有したり、多くのスキンシップを通して気づける些細な体調変化を、獣医師に連絡・相談する連携も整っていることに感嘆しました。

介護負担は大変だが、犬を迎えたことを後悔して欲しくない


 老犬ホームは終生預かりが前提だと思っていましたが、仕事中の数時間だけ預かるデイケア利用や、平日はホーム、週末は自宅で過ごすワンちゃんもいました。また飼い主の出張や入院、自宅のリフォーム等の様々な理由での短期預かりもありました。また、中には若齢の子もいることから、幅広い年齢層のワンちゃん達がお互いに良い刺激となることで、シニアの活動性が上がることもあるのだそう。さらに、その子に適した食事形態や運動量などをスタッフが飼い主にアドバイスするケースもあり、それは嬉しいサービスだと思いました。チーフの堀内さんは「飼い主さまには無理をして欲しくない。『介護が大変だったから、犬を飼わなければ良かった。』とは思わないで欲しい。」と話されていました。

限られた時間を誰かに任せたくないとひとりで抱えていた日々


 自分の経験を振り返ると、シニア特有の可愛さと頑固さいっぱいの愛犬の世話は、とにかく必死な毎日。痩せて小さくなった体で頑張る姿は痛々しく、「頑張らなくても良いよ」と言いつつも、その存在を失う怖さに日々怯えていました。単身だったため、近所に住む家族やシッターに頼ったこともありますが、限られた時間を誰かに任せることはしたくないし出来ないと、ひとりで抱え込んでいたように思います。その結果、十分なことが出来ただろうか、と看取ってからしばらく後悔ばかりしていました。自分で介護できるという自信が持てないと、怖くて次の子は迎えられないという思いから老犬介護やリハビリテーションの勉強を始めました。もっと身近にアドバイスを求められる場所や、不安や悲しみを聞いて貰える相手がいたら、違う結果になっていたかもしれません。
 今回の経験では、分担する人・場所を増やすことは飼い主と犬の双方に選択肢を増やし、安心・安定に繋がると改めて実感しました。

若いうちから他人や他の犬に慣らすことの重要性


 犬は本来群れで生活する生き物ですが、高齢になってからの突然の環境変化は戸惑いも生じるので、早いうちから人の手でケアを受けること、他のワンちゃんと一緒に過ごすということに慣れておくことが重要です。老犬ホームと聞くとまだ馴染みがなく敷居が高そうですが、トレーニング教室や保育園・幼稚園の延長線上の存在として、たくさんの方に知り利用してもらいたいと感じました。

文・羽田紘子
普段はお子さんの心身のケアやカウンセリングを専門とする小児科医。2022年春、動物専門学校卒業予定。