憎帽弁が変性し、心臓の血液が逆流する僧帽弁閉鎖不全症(シニアに多い病気)
早期にはほとんど症状はなく、咳、運動を嫌がる、呼吸が苦しそう等の症状が出ている時は重症な時が多い
心内膜が様々な要因で変性を起こし、僧帽弁の弁膜が変性し、弁が閉鎖できなくなる
一般身体検査、X線検査、胸部超音波検査
投薬は半永続的に続くことが多く、症状が進行する程に投薬量が増えて、投薬に負担がかかる
外科手術は根治が目指せる有効な治療手段で少しずつ手術可能な施設が増えてきている。かなり高度な施設と技術を要するため経済的負担は大きい
帽弁閉鎖不全症は心内膜が様々な要因で変性を起こし、その変性が左心室と左心房の間を隔てている僧帽弁の弁膜にも及んで弁が変性し、弁が閉鎖できなくなる病気です。
心臓内には4個の部屋があり、それぞれの出入り口は弁で仕切られていて通常は血液が逆流しないようになっています。しかし弁膜の変性により弁がしっかり閉まらなくなると、通常一方通行な血液がそうではなくなるので、心臓の前方に血液がうまく循環しなくなったり、後方の血液が渋滞したりして血液循環に不均衡が生じてきます。しかし、この不均衡は心臓が強く収縮したり、血液量を変化させたりしながら代償的に体はバランスをとってくれているので初期の間は症状に出てきません。この代償性機構の能力の限界を超え、心臓がポンプ機能の役割を果たせなくなった時に心不全徴候が現れ始めます。
この病気は犬における心不全の最も一般的な原因になっています。僧帽弁閉鎖不全症の発症率と重症度は加齢とともに増加するので、シニア犬の代表的な病気の一つになっています。また、小型犬の30%ぐらいの割合で将来に発症すると言われていて、とくにキャバリアでは高率に発症し、若齢時から発症することもあります。
症状は重症度により様々ですが、飼い主さんがこの病気で来院されるときに良く言われるのが、咳をするようになった、散歩や運動を嫌がるようになった、呼吸が苦しそうなどです。このような症状が認められる時は重症時が多いので、早めの受診をお勧めします。早期発見するためには定期的な健康診断の必要があります。
では、院内ではどのような検査をしていくかというと、一般身体検査、X線検査、胸部超音波検査などで確定診断を行います。心臓は体の中心的役割を果たしているので、心臓の働きが悪くなるとその他の臓器にも障害を併発することが多いので血液検査も同時に行うと全身状態を把握できてスムーズに治療に入れると思います。
治療は心臓機能をサポートするための薬を使う内科療法、閉鎖できなくなった弁を形成する外科療法に分けられます。内科療法は病気の進行度により投薬量は違いますが、進行すればするほど薬の量が増えてしまうので飼い主さんの根気と協力は必要になってきます。外科療法は行える施設が限られていることと、経済的負担が大きいことで主流にはなってい
ませんが、将来の投薬量の減少や生活の質の大幅改善が認められるので有効な治療手段だと思います。
重症例になると運動や食事制限など生活の質がかなり落ちますし、かなり苦しい病気なので、早期に発見して心臓の負担を軽くしてあげるのが将来的な生活の質を向上させる第一歩だと思います。
監修:福田卓也先生/獣医師
’04年麻布大学獣医学部卒業後、都内動物病院院長を経て、現在、西日暮里ペットクリニック院長。その傍ら、麻布大学専科研修医として腎泌尿器科、一般外科を学ぶ
症状や治療法は一例です。病気を診断するものではありません。自己診断せず、かかりつけの獣医師に相談しましょう。【vol.2(2009年1月)掲載】※情報は掲載当時のものです。